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【書評】10代の脳 著フランシス・ジェンセン博士

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 カーリルのおすすめに上がっていたので読んでみました。

calil.jp

 

本書は10代(ティーンエイジャー)の理解しきれない無謀さや感情の変化は何かという点に焦点を当て、脳神経学の分野から理解していこうという内容になっています。

著者自身もシングルマザーで2児の母であり、10代の息子達の反抗期や思春期にどう向き合い、乗り越えていったか、脳神経学的面と実際の子育てにて悩まされた様子の両面から書かれているのが理解しやすいポイントでした。

 

 

 

 

著者について

 

フランシス・ジェンセン博士、ペンシルバニア大学教授、脳神経学研究者。

高齢者の認知症、乳幼児の脳神経学の分野は研究が進んでいるが、10代、ティーンエイジャーの脳神経学の研究は後回しにされており、情報知識の普及も遅れている。

近年の研究において子どもとも大人とも違う脳神経系の特徴があることが判明し、子育てに悩む養育者に向けて本書を執筆した。

TED MED では、本書の内容もプレゼンしている。

 


Frances Jensen at TEDMED 2010

 

概要

 

本書の内容をざっくり要約すると、10代の脳は未熟であるため、衝動的で不合理、間違った判断を下しがちになることが数々の研究データから述べられている。

だから「若者はだめだ」という話ではない。乳幼児の脳が発達段階であると同じく、10代の脳も発達段階にあるに過ぎないということだ。

 

アメリカで初めて心理学博士を取得した、グランヴィル・スタンレー・ホール博士の言葉にも以下のようにある。

その10年は人生で最高の時期である。この時期にこそ、最高にしてもっとも聡明な業績がなされる。この時期の精神の土壌には、ほかのどの時期よりも、良い種も悪い種も深く根付き、旺盛に茂り、迅速かつ確実に実を結ぶのだ。※本書より。

   

著者は以下のように言う。

実際、10代、特に高校生は3年間で膨大な知識を吸収し、これまでの可愛らしかった我が子が急に大人顔負けの論議をぶつけてくることがよくある。

また、スタンレー・ホール博士は、思春期は想像力の誕生日と楽観的に捉えているが、その快活の日々が危険で、衝動的で、恐れ知らずで、気分に左右され、洞察に欠け、判断力に乏しい時期だとも知っていた。

 

衝動性と無謀さを悲観してはいけない。しかしだからといって、衝動性に身を任せ、自暴自棄になる10代の子どもたちを見過ごしてはいけない。

 

と、いう事で、本書の内容を、①10代の脳の特徴、②養育者の心構え、 ③10代の脳神経に関わることの3つのポイントに分けて簡単に紹介していく。

 

 

内容

 

脳の機能まとめ

 

まず前提として、簡単に、脳の作りと各領域の役割についてまとめる。

 

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脳は、大脳、小脳、脳幹からできており、脊髄へと繋がっていく。

 

大脳

大脳は、脳の80%を大脳が占め、領域ごとに前頭葉(思考・記憶・情動・運動の指令)②側頭葉(記憶・言語・音の解析)頭頂葉(空間認知)、 後頭葉(視覚)に分けられる。

主に、一次機能(光や音の「感覚受容器」、手足を動かすなど運動させる「運動効果器」)・高次機能(「認知」、「言語」、「記憶」、「行為・遂行」、「情動・人格」)の両方を担う。

※これらの大脳を縦に切ってみると、色によって外側の灰白質と、内側の白質に分けられ、灰白質ニューロン細胞体部分であり、大脳皮質とも呼ばれる白質はニューロン軸索部分であり、大脳髄質とも呼ばれるニューロン軸索部分は情報伝達を行う部分で、脳の発達には重要となる。

 

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大脳辺縁系

 

大脳辺縁系は、帯状回扁桃体、海馬、海馬傍回、側坐核からなり、内分泌・自律神経系、記憶・感情に作用する。

 

帯状回:血圧・心拍・呼吸の調整、意思決定や情動の処理。

扁桃体:性・感情、切れやすい、過剰に活発

海馬:記憶を覚える符号化、思い出す検索、短期記憶を長期記憶に変える。

海馬傍回:風景、顔の画像記憶、認識

側坐核:快感、GABAの産生

 

大脳基底核:動作を調和させパターン化させる(関連:パーキンソン病

 

 

小脳

小脳は知覚と運動機能の統合。平衡、筋緊張、随意運動の調整。平衡感覚と調整を助ける。アルツハイマーや大脳が損失を受けた場合、大脳の代替機能を担う役割もある。

 

 

脳幹

脳幹は(間脳)・中脳・橋・延髄からなる。

この図では間脳の表記は無いが、中脳の上、①視床・②視床下部・③脳下垂体、④松果体、⑤乳頭体によって構成される。

 

間脳

視床:感覚信号の中継局

視床下部:飢え・渇き・性交・攻撃などの中枢

 

③脳下垂体:ホルモン分泌

松果体:概日リズム、メラトニン

 

中脳:視覚・聴覚の中継、眼球運動

橋:顔の筋肉、唾液腺、視覚・聴覚の中継、眼球運動

延髄:呼吸、嚥下、嘔吐、自律神経系の中枢、生命維持に不可欠

 

 

 

他、脳の機能に関するお話はこちらに詳しくまとめられているのでご参照いただきたい。

脳 ( 司令塔 ) のお話し | 大脳皮質 | 大脳基底核 | 前脳基底部 | 大脳辺縁系 | 中脳・小脳・脊髄 |脳室・側脳室・第3・4脳室 - Akira Magazine

 

 

10代の脳の特徴

 

10代はなぜ、衝動的で、大人からすれば頭がおかしい事を平気でするのだろうか。

本書は欧米の学生の話が例に挙げられているが、日本も周囲の環境が変われば同じかもしれない。(cf.①ウォッカ・アイ・ボーリング:瞬時に酔うため、目に酒をぶつける。②大麻は、漂白剤を薄めて飲むと検査を通り抜けられる、③エナジードリンクを酔いを軽くしようとアルコールと混ぜて飲む(脳の抑制・亢進の合わせ技、泥酔していても頭がすっきりしている)。④カフェインの過剰摂取で緊急外来に運ばれる アメリカはカフェイン摂取量に上限が無いので、高校生が1日5本エナジードリンクを飲む。)

 

こうした理由として脳神経学的見解から、10代の脳が未完成であることのデータが挙げられる。

 

 合理的な判断ができない

 

 灰白質(大脳皮質・ニューロン細胞体部分)は有り余っているが、白質(大脳髄質ニューロン軸索部分、情報伝達する部分)は足りていない。(※脳は基本的に土台から作られる。)この軸索部分の結合が未完成のため、大脳皮質前頭前野の感情のコントロールが出来なかったり、衝動的、合理的な判断が出来ないことが多い。

 

情動に関する前頭葉、白質部分の繋がりは、10代の脳では80%程度でまだまだ発達途上である。衝動的・不合理・間違った決断をする他、注意力も散漫であることを理解したい。

 

 

失敗を学びにくい

 

帯状皮質(行動感知、過ちを発見する)の発達も未完成のため、若者は失敗を学びにくい傾向にある。プライドとセルフイメージを大切にするあまり、自分を批判的、客観的に見れない。

 

理性は15歳までに備わるが、報酬・興奮に過敏になる

 

理性は15歳までに備わるが、青年期は自意識と野心が強くなるといったように、あらゆる性質や能力が強化され、過剰になりやすい。報酬や興奮に過敏になり、自意識、性格・個性も形成されるが、これらは全て可塑性で、柔軟で可変的なものである。

また、思春期は性ホルモンの増加、大脳辺縁系に働きかけ、感情が不安定になり、刺激を欲するようになる。

 

 

ストレスにも弱い

ストレスにも弱い、パニック、不安障害にもなりやすい。

 

マルチタスクはできない 

車の運転をしながら携帯を見る → 交通事故の87%がながら運転

 

 

 

②養育者の心構え

 

10まで数えて冷静になる。

 

10代の脳が未発達と分かっていても、腹が立つときは腹が立つ。「10まで数え」て冷静になる。10代には強みと弱みがある。できる事とできない事を理解し、支えてあげるイメージで付き合う。

 

 

10~14歳は繰り返しアドバイスをする

 

自分を批判的・客観的に見れないので、一回言っても仕方がない。うざいと思われても合理的な判断ができないためこれも仕方がない。分かるまで言い続けるしかない。

 

 

部活や友達付き合いは、子ども危険なリスクから遠ざける。

 

昨今、ネットで色んな人と繋がれる時代である。情報が変に偏ったりしないので、友達付き合いはどんどんさせたい。

YouTubeでメンタリストのDaiGoさんも早期教育無駄説でも、友達付き合い、社会性の方が重要と言っていたので気を付けたい。

 

睡眠はやっぱり大事

 

睡眠について、乳幼児はヒバリ型(早寝早起き)、若者はフクロウ型(遅く寝て遅く起きる)、大人は早寝早起きになる。これは若者はメラトニンの放出が大人より2時間遅いから眠くならず、メラトニンが体内に残りやすいから起きられないことが関係している。寝られないのも、朝起きられないのもある程度は仕方がない。

しかし、睡眠の効果は、しっかり眠ると食が進み、ストレスと上手に付き合える。睡眠不足は生理学的にもストレスになる。 

スマホ画面を2時間見ると、睡眠ホルモンが2時間減る。メラトニン23%減少する。

聖書にも「日が暮れるまで怒ってはいけません」とある。寝る1時間前は遠ざける。学校から帰ってきたらやることをリスト化して、寝る前はゆっくり過ごすようにする。

 

繰り返す脳震盪は脳に障害をもたらす

脳震盪を繰り返すと学力低下学習障害、注意障害が生じる。スポーツ等にも注意したい。

 

 

③10代の脳神経に関わること 

 

最後に、 10代の脳神経に関わるデータをいくつか紹介する。タバコ、飲酒、ドラッグ、ゲームだ。

タバコはIQの低下、ニコチンへの反応性の高さが見られた。飲酒は脳の萎縮、ドラッグは少し少し飲んだだけで脳の海馬と白質の発達に影響を与える。ゲームはドーパミンの分泌がニコチン中毒と似ている反応、変化が見られた。これは化学反応だけではなく、精神活動も脳に変化をもたらすことを意味する。(ゲーム中毒はニコチン中毒者に似ており、眼窩前頭皮質が小さく、強迫性障害と同じ構造になっていた。)

また、1日10時間のゲームを週6日行ったところ、脳の萎縮20%が見られ、記憶中枢、決定能力の鈍化が見られた。これは、アルコールや薬物と同じ反応である。

 

※ちなみにADHDは1時間でもゲームすると症状が重くなる。

 

マルチタスクはしない方がいい。集中力の低下と鬱・不安症状との関連が見られる。

 

虐待、トラウマは脳のダメージにも影響を与える。 

 

その他、男女の脳の違いは、13歳の時点で女子の方が1年半早く発達するが、いずれ差は無くなるとの事。話を聞かない男、地図が読めない女は偏見ステレオタイプでしかないので、数理的処理について女子は数年早く取り組ませれば問題ないとの事。

 

 

 

以上、後半駆け足でしたが、本書の読書記録に良いかなとまとめさせていただきました。

数ある研究データがまとめられており、脳神経系の情報の整理、10代と接する機会の多い方にもおすすめの書籍かと思います。